民事保全は、大きく分けて仮差押と仮処分に分かれます。
ここでは「仮差押」について説明します。
まず、「仮」のつかない普通の「差押」について説明します。
差押えというのはその物または債権の処分を禁止することです。
小説などで「自宅に差押えを受けた」という表現が出てくることがありますが、つまり、「自宅を自分で処分すること(売却・贈与など)が禁止された」ということです。
通常の差押を受けた場合は、その後裁判所による競売手続に移行します。
実務的には、競売手続の前に、債権者(差押えをした人)により、不動産の任意売却が検討されることがあります。
ただ、気を付けていただきたいのは、ここで任意売却をするかどうかの実質的な決定権を持つのは差押えをした人であって、本来の持ち主(差押えを受けた人)には勝手に物を処分する権限はありません。
差押えを受けることによって、その物について本来自由に処分してよいはずの権限があるところを制約されるということです。
差押えは、上記の通り非常に強力な権利の実現手続です。
ですので、原則的には裁判に勝訴しないと行うことができません。
時々、「一週間以内に返済しなければ、あなたの自宅や財産を差し押さえます」と威圧的な連絡をする金貸しがいることもありますが、原則的には裁判も何もなしでは差押えはできません(例外として公正証書と言うのがありますが、いずれ改めて説明します)。
お金を払わなければ差し押さえるぞ、というのは、嘘ではないにしても、すぐにそれが始まるかのように言っているところはやや大げさな表現、と言うことになります。
しかし、差押えをしたいときに、裁判を起こして、判決を取って…、ということを考えると、どうしても時間がかかります。とても速い弁護士に依頼して訴状を作成提出しても第1回期日は1か月後、判決は、相手の争い方にもよりますがもっと先になります。短くて2か月くらい、裁判が長引けば1,2年はかかるでしょう。
例えば、ベンチャー企業代表を名乗る者に儲け話があると言われて200万円をだまし取られたとして、その相手を探し当て、損害賠償請求訴訟を起こしたとします。
その裁判の間に、相手が、相手の唯一の財産である自宅を売却してしまったらどうなるでしょうか?
長い法廷闘争の末に200万円勝訴の判決をとったとしても、相手は唯一の財産を売ってしまっていますから、一文無しです。そうすると200万円を返してもらうこともできません。
前置きが長くなりましたが、ここで「仮差押」という手段が出てきます。
「仮」がつくのは、裁判で勝訴判決をとらなくても差押えをすることができるからです。
最終的な決着がつく前でも差押えができるということが、普通の差押えとの大きな違いです。
つまり、上記の例で言えば、判決が出る前、あるいは訴訟を起こす前でも、相手の唯一の財産である自宅を差し押さえることができるのです。
こうすることで、訴訟が長引くことを恐れずに済むのです。
実際には、そう上手くいくことばかりでもないのですが、とりあえずここでは「仮差押」が、判決を待たずに差押えができる制度だと覚えていただければけっこうです。