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民事訴訟法

 

間接反証

間接反証
 
間接反証の難しさ
間接反証理論は,証明責任論の中でも若干複雑な領域です。
マイナーな論点であり,民訴法学者の最高峰である東京大学の高橋宏志教授が間接反証の概念について不要論を唱えておられること(高橋宏志『重点講義民事訴訟法(上)』(第2版)543頁以下)もあり,民訴法の苦手な学生(私も元々は苦手ですが)にとっては学習意欲が湧かないところかもしれません。
しかし,一応でも内容を理解しておくこと,なぜ不要と言われているのかを理解しておくことは証明責任論全体の理解のために有益と思われます。
そのような理由で,拙いものではありますが,教科書的説明よりもくだけた説明を試みます。
 
 
間接反証の定義と考え方
間接反証とは,
 
ある主要事実につき証明責任を負う当事者が,その主要事実を推認させるに足る間接事実の存在を証明した場合に,相手方が,右間接事実と両立しうる別の事実の存在を立証することによって,右の間接事実による主要事実の存在が疑わしいことを明らかにし,主要事実につき裁判官が心証を形成するのを妨げるための証拠ないし証明活動(上田徹一郎『民事訴訟法(第7版)』389頁)
 
です。
 
これだけ読むと何のことなのかわかりません。
 
ただ,この定義のうち最重要な部分は「両立しうる」という言葉です。
民事訴訟法の証明責任論または要件事実論の初歩を勉強した学生さんなら,「両立しうる」というキーワードでピンと来るものがあるのではないでしょうか。
 
そう,主要事実に関する「否認」と「抗弁」です。
一方当事者が主張する主要事実がある時に,他方当事者がそれと両立しない主張をするのが「否認」,主要事実と両立しうるが主要事実が認定されることによる法律効果を打ち消すために別の主要事実を主張するのが「抗弁」です。
例えば,売買契約の事実が主張されている時に,そんな売買契約はしていない,という主張は売買契約の主張と両立しませんから「否認」,売買契約はしたが詐欺(別の主要事実)があったので取り消す,という主張は売買契約と両立しうるけれども,売買契約成立による法律効果(債権の発生・継続など)を打ち消すものですから「抗弁」です。
 
これを間接事実レベルで考えるとどうなるか。
間接事実とは,例えば,上記の売買契約の例で言えば「当事者同士は6月1日,池袋駅近くの貸し会議室で会って話をした」という事実のことです。売買契約そのものを直接に証明する事実ではなく,それがあったのではないかと推認させるための事実です。
主要事実の存在を推認させるための事実ですから,主要事実のように法律効果云々は観念し得ません。
したがって間接事実レベルでは「抗弁」は観念できません。
他方,間接事実についても「否認」はあり得ます。上記の例で言えば,6月1日はその貸し会議室には行っていないとか,6月1日には別の予定で北海道にいた(だから,会っていないし会えるわけがない)とかの主張です。これは間接事実と両立し得ない事実主張ですから「否認」となります。
 
ここでさらに検討を進めてみます。
間接事実レベルでは法律効果は関係ないから「抗弁」はない。
でも間接事実のレベルでも,相手の主張する間接事実と両立しうる主張ではあるが,相手の間接事実の推認力を弱める立証というのは有り得るのではないかということです。
 
そこで出てくるのが「間接反証」理論です。
最初に「両立しうる」が最大のポイントと書きました。
ごく大雑把に言えば,間接事実における「抗弁」的なもの,それが「間接反証」です。
 
訴訟や法律と結びつけると難しいので,いったん訴訟や法律を離れて身近な例で考えてみましょう。
 
例えば,学生A君が大学のサークル旅行の待ち合わせに,1時間もの大遅刻をしてしまいました(それ自体は単なる約束違反であって違法ではありませんが…)。
A君を怒りの目で見るサークルメンバー達。
しかしA君は,「自宅からの電車が遅れたので,乗り継ぎを諦めて途中駅から直接,急いで走ってきた,だからこの大遅刻は僕の責任ではない」と必死で弁解しました。
サークルのメンバーが運行情報を調べると,たしかにA君の自宅からの電車が遅延していました。
さらに,A君は顔からダラダラと汗を流していました。
 
この場合,サークルのメンバーとしては「運行情報でA君の自宅からの電車が遅延していること」「A君が顔からダラダラと汗を流していること」の間接事実をもって,A君の遅刻が,A君の責任によるものではなく,A君は時間に間に合うために可能な限り努力した(A君に過失はない)ことを認定するでしょう。
A君の弁解はどうやら成功しそうな状況です。
 
ところが,ここで,例えばサークルメンバーの知り合いからLINEが来て「A君がついさっきまで(待ち合わせ場所近くの)トレーニングジムで汗を流していたけど,ふと自分の携帯を見て,何かに気付いたように慌てて出て行った」という情報が入ってきたとしましょう。
 
ここで理論的な検討をします。
誰かが「電車は遅れていない」「A君は汗を流していない」と主張するとしたら,それはA君の主張する間接事実や間接証拠と両立しませんから,間接事実の否認に当たるわけです。
ところが「A君が待ち合わせ場所近くのトレーニングジムで汗を流していた」という事実は,電車が遅れた事実とも,A君が汗ダラダラである事実とも両立します。しかし,両立しうる事実であるにも関わらず,トレーニングジムの事実は,A君の弁解の説得力を大幅に弱めます。
その事実が提示されるだけでも,サークルメンバーは「じゃあ,A君は電車の遅れ関係なく先に近くに着いていたのに,ジムでトレーニングに熱中しているうちに,待ち合わせ時間を忘れたんだな」と思うでしょう。
ここで,さらに,A君が待ち合わせ時間を大きく過ぎるまでジムを利用していたことがわかるレシートなどの証拠が出てくれば,A君の弁解の失敗は決定的となります。
 
これが間接反証の基本的なかたちです。
A君の遅刻に関する道義的責任を,債務不履行の「帰責事由」や不法行為の「過失」概念に置き換えていただければ,教科書の難解な事例も,ある程度理解できるのではないかと思います。
 
 
間接反証と不要論
冒頭で述べた通り,間接反証の概念には有力な不要論が存在します。
高橋宏志教授は,『重点講義民事訴訟法(上)』(第2版)543頁以下において,間接反証理論を概ね以下の理由から無用なものと位置付けています。
 
間接反証理論の例に「過失」等の規範的構成要件要素が挙げられることが多い。しかし,「過失」について言えば,現在では「過失」それ自体が主要事実なのではなく,「過失」を基礎づける具体的事実を主要事実と捉える考え方が一般的である。その場合,間接反証の理論は必要なくなる(過失の評価根拠事実,評価障害事実をめいめい主張すれば済む)。間接反証理論は,ローゼンベルク以来の古い法律要件分類説を採った場合にのみ必要な概念であり,現在では不要である。
 
間接反証理論は,間接反証を行う当事者に証明責任を負わせる機能を有しているが,間接事実についての証明責任を観念することに無理がある。
 
 
上記の通り,現在の民事訴訟法学習では間接反証理論を不要とする考え方が主流なのかもしれません。
 
私は,間接反証理論は,法律論としては高橋宏志教授の御指摘の通り不要かもしれないと思います。
他方で,事実認定における整理のための考え方としては,きわめて有用であると考えております。
実務で直接的な証拠や事実がない場合に,間接事実レベルの闘いになることが,よくあります。その場合に,自分(弁護士)がしようとしているのが,相手主張と両立しない否認なのか,相手主張と両立する間接反証(「抗弁」的な主張)なのかを確認しておくことは,証明責任が関係ないとしても,立証方針を考えるにあたっては有用です。
 
ですので,学生さんには間接反証理論の学習を飛ばしてほしくはないと思いますし,間接反証理論を,なぜ不要と言われるのかも含めていったん理解すれば,証明責任論全体の学習にとっても有益なのではないかと考えております。
 

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