最近、テレビ番組に出演して活躍している著名な弁護士が、依頼者(個人)が法テラスの援助制度を利用しているにもかかわらず、法テラスから支払われる着手金・報酬以外の金銭を顧問料として受け取っていたという件で懲戒処分を受けました。
その処分が重いかどうかについては論議のあるところですが、先にも書いた通り法テラスの着手金・報酬は通常の依頼を受けるよりも低額なのです。
医師のように国民健康保険制度はありませんから、低額になった分がどこかから埋め合わせされるわけでもありません。
しかし、法テラス契約している弁護士は皆、弁護士費用の支払えない人にも法的サービスがいきわたるように努力しています(契約していなくとも、法テラス基準で事件を受任している方もいます)。
そうやって皆で頑張っているところに、法テラスの着手金に上乗せして受け取る弁護士の存在を許したのでは、法テラス制度の趣旨を没却しますし、法テラスの着手金・報酬に従って頑張っている多くの弁護士に対する裏切りともなるでしょう。
その意味で,同弁護士への懲戒処分自体はやむを得ないことと思われます。
ただ、法テラスを利用している場合でも、依頼者負担が出る場合はあります。
これは「その著名な弁護士の懲戒処分の場合と、どう違うのだ」と思われる方もおられるかもしれませんので、以下に依頼者負担が生じる代表例を若干解説します。
1.破産申立などの際の予納金
破産を申し立てるときに印紙代や初回予納金及び官報公告費用等として、裁判所に1万円以上2万円以下程度の金額を収める必要が出ることがあります。
また、簡易管財事件となった場合は、仙台地裁の場合、10万円から20万円の予納金(管財人報酬となります)を準備する必要があります。
法テラスは代理人となる弁護士費用を援助する制度であって、破産手続や裁判にかかる費用までも全てを援助する制度ではありません。
したがって、破産申立時の予納金等は原則として自己負担していただくことになります。
生活保護受給中の方に限り、予納金についても援助が出ます。
2.遠隔地出張の場合の交通費
法テラス利用している場合でも、代理人弁護士が遠隔の支部に出張したような場合(例えば仙台市内の弁護士が仙台地方裁判所気仙沼支部に出張したような場合)があります。しかし、法テラスの着手金・報酬は遠隔への出張を基本的に増額事由としては評価しません(遠隔であることも含めて多数回の出頭など労力がかかったという場合には若干の増額があることもある)。
交通費についても支出しません(電車代・ガソリン代など)。
その場合、少なくとも、電車代・ガソリン代などの交通費は依頼者の方に自己負担していただくこととなります。
ただ、それだけに、なるべく管轄裁判所の近くにいる弁護士を依頼したほうが良いということになるでしょう(もちろん、遠隔地の事件であるからと言ってそれだけを理由に弁護士の側から受任をお断りするわけではありませんが、依頼者の方の負担の問題です)。
たまに法テラス相談を受けていると遠隔(県内支部というレベルではなく他県)の裁判所が管轄になっている事件についての相談を受けることもありますが、その場合はその他県の弁護士または法テラスに相談に行くように勧めています。
3.震災関連性のない案件で震災法律相談をし、その件について依頼する場合
これは宮城・福島・岩手などの東日本大震災の被災県に特有のパターンですが、解説します。
東日本大震災当時、被災県にお住まいだった方については震災法律援助という制度が利用できます。
具体的には、震災関連性がある・ないに関わらず3回まで法律相談が無料にできます(厳密には、法テラスから法律相談料が支払われるので、相談者において支払の必要がありません)。
この制度の肝心なところは「相談だけなら、震災関連性がなくても利用できる」「また、相談だけなら収入・貯蓄があっても利用できる」ことです。
震災と関係のない離婚でも土地紛争でもいいのです。また、裕福な方でも利用できます。
ただ、相談だけではなく震災法律援助で弁護士に代理人を依頼したいとなると「震災関連性」が必要となります。
震災関連性のない場合は、通常通り、収入・貯蓄が一定以下であるという要件を満たさなければ法テラスは利用できません。収入・貯蓄も一定のラインを超えているということであれば、通常の依頼をしていただくほかなくなります。
私が見る限り、平成25年ころからは、震災関連性のある相談のほうがずっと少ないという状況です。
この点、「法テラス相談を利用していたのに弁護士から直接依頼を要求された、不当ではないか!」 と誤解なさらないようにお気を付けいただければと存じます。