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司法試験勉強法

 

はじめに

はじめに
 
この文章を書く理由
司法試験合格後修習までの間、予備校(旧Wセミナー、現TAC)にて答案添削をしておりました。
また、弁護士登録してからしばらくの間、食法会(東北大学生による受験勉強サークル・今は法科大学院制度の発足により解散)で受験指導をしたり、また法科大学院生を対象とした課外授業で答案の作成法を指導しておりました。
自分自身の受験勉強の経験と、受験指導をした際の経験を元に、司法試験の勉強法について思うところを書こうと思いました。
既に試験制度は法科大学院制度に合わせた新司法試験に変わっており、旧司法試験時代に身につけたノウハウがどこまで通用するか分からない部分も多いですが、法律の勉強の基本まではそう大きくは変わらないものと考えております。
法学部生の方や法科大学院生の方にもご参考にしていただければと思います。
 

司法試験勉強の基本的発想

司法試験勉強の基本的発想
 
1.理解することと書くこととの違い
司法試験のための勉強には幾つかの壁、つまり行き詰るポイントがあります。
そして、多くの法学部生が突き当たる壁が、「授業は理解できるけど、答案が書けない」ということではないかと思います。

法律学自体は、れっきとした社会科学系の学問であるとは言え、他の文系学問(哲学や経済学)と比べれば、大部分は日常的に接する用語や概念を用いて構成されているものですから、大学に入って授業を聴いても全く意味が分からないということはそう多くないと思われます。
哲学に出てくる構造主義とか実存主義という言葉や、経済学に出てくる無差別曲線とか価格弾力性という言葉は、いずれも日常的に用いられる用語のレベルからは遠く隔たっており、なかなか理解が難しいところではありますが、法律学ではそのような概念はあまり多くありません。たしかに「瑕疵」とか「不真正不作為犯」という言葉はそれ自体では非常に難解に見えます。しかし、それぞれ「欠陥のあること」とか「犯罪を犯す意図をもちながらも積極的な作為に及ぶことなく犯罪結果を実現させることであって、刑法の条文には直接的に規定されていないもの」と、極めて大雑把ですが日常用語に還元することが一応可能です。
したがって、概念自体を理解し定義をある程度覚えること自体は、そう難しいことではないはずです。
ですので、教科書を読んで大体のところをうろ覚えでも理解し、大学の定期試験で「不可」をもらわない程度の答案を書くところまでは、法学を志し、また高校時代までの勉強の基礎的な素養があれば、ほぼ誰でもたどり着けると思います。

しかし、難しいのはこの先です。
法学部や予備校で授業を受けた後、じゃあ早速試しに司法試験の過去問で答案を書いてみよう、ということになると、これはかなり敷居が高いです。
聴いて理解するレベルと自分で問題を分析して答案をかけるレベルとでは、かなりの差があります。

私も大学2年生のころ、大学や予備校で憲法・民法・刑法について一通りの授業内容を通しで聴いたので、さっそくと思い論文答案の作成を試みたのですが、まずそもそもその問題が何を問うているのかがわかりませんでしたし、書き出しをどう書いたら良いかということすらわかりませんでした。

ここで申し上げたいのは、論文答案の書き方がわからないのは最初は誰でも同じということです。最初からスラスラと答案を書ける、そんな特別な資質のある者だけが悠々と合格していくわけではありません。むしろ、この「聴けば理解できるけど、書けない」という状況が司法試験との関係では本当の意味でのスタートラインと考えていただければと思います。
 
2.無闇に論文答案を書いても意味は乏しい
論文答案が書けないからといってすぐに「論文対策」の予備校テキストを読んだり、また対策講座を受けるということはあまりお薦めしません。
学習の初期段階では、論文答案を何通書いてもあまり効果はありません。
ただ無為に書くだけでは効果は上がりません。
自分で考えて論点を見抜いて選んで答案構成するからこそ練習の意味があるのであって、考えずに何となく書いていても成果は得られません。
どの予備校の基礎講座でも軽く論文答案を書かせる講座はあるでしょうし、また予備校に通っていなくても本試験の問題を題材に答案練習してみることもできるでしょう。最初は、そうやって、論文答案を書くということが難しいと言うことを悟るだけで十分と思われます。
基本的に論文答案を書けないというのは慣れの問題ではなく、ほぼ基礎学力の不足に由来しています。
個人的な感覚で述べれば基礎学力80%、答案構成の方法論20%という感覚です。
基礎学力さえしっかりしていれば、方法論は試験前の1年で取り繕えば何とかなります。
まずは基礎学力をつけることが大事です。
ここで、どの受験ガイドでもしょっちゅう「基礎学力が大事」と言われますが、では「基礎学力」とは何でしょうか。
次は「基礎学力」とは何かということとその鍛え方について記述します。
 
3.基礎学力とは何か
司法試験における基礎学力について、まず第一には「ある概念や条文について、教科書を見なくても、その概念や条文の大体の内容と趣旨(その概念が考え出された理由、その条文が存在している理由)を思い浮かべることができる」こと、と考えております。

例えば、刑法各論の窃盗罪等における「不法領得の意思」という概念がありますが、これについて、教科書を見ずに「他人の物を特に正当な権利もないのに自分の物にしてしまおうという心理状態のこと。使用してすぐに返すような使用窃盗との区別、また毀棄・隠匿罪との区別をつけるために必要」と大体思い浮かべることが出来ればよい、他の概念や重要条文についても同様、ということです。

上記の例は、教科書的な定義の丸暗記ではありません。繰り返し学習することで何となく身に付いた感覚のようなものです。実務的には不法領得の意思の有無が正面から問題になる事例は少ないのでここ何年か正確な定義は復習していません。それでもぱっと思い浮かべて70%程度は当たっているものが思い浮かぶこと、これが(口幅ったい言い方ですが)基礎学力、と思います。
実際には上記の私の思い浮かべた内容だと最初に権利者排除意思が抜けています。したがって教科書の忠実な暗記ではありません。ただ、権利者排除意思に結びつく趣旨として使用窃盗との区別を含めているので、アウトラインとしては(多分)大外ししてはいないと思います。

大事なことは、丸暗記ではないということです。定義や条文のうちで重要なものを書き写して覚えることもあるにはありましたが、しかし大体1回か2回です。何度も書き写したり復唱したりする人がいますが、それだけ繰り返していても効果はありません。基本書の通読や事例演習を繰り返す中で「大体のところで」身につけていくことが大事です。
なお、暗記を完全に否定しているわけでもないです。私が上記の概念を大体で思い出せるのも、ある程度は暗記を意識して学習したからであって、「不法領得の意思」のレベルでいちいち現場思考していたのでは合格は難しいです。
基礎学力は事例検討などを通した思考と、暗記のコンビネーションで成り立つものだと思います。
たまに司法試験勉強について思考か暗記かと言う議論がありますが、思考も暗記もいずれも重要であってどちらかさえあればいいというものではありません。
思考か暗記かなどという白か黒かの議論をしても無意味ですので、基本書読みと事例演習のバランスの良い勉強を心がけることで基礎学力を養うことが重要です。
 

基本書を読む

基本書を読む
 
基本書あるいは予備校のテキスト
司法試験に合格するためには、基本書読解が不可欠とされています。
最近は基本書の代わりに司法試験予備校のテキストが使われることもあるようです。
個人的には基本書のほうが学術的な雰囲気があるので好きですが、これについては性格や向き不向きの問題もあるので、基本書であろうが司法試験予備校のテキストであろうが自分に合ったものを選べば良いと思います。
ただ、最近の基本書は、わかりやすさを意識してか、予備校テキストに近い体裁のものも多く見られるように思われます。


 
基本書を読む前に
ここでは専ら基本書を読んで勉強する場合を想定します。

基本書をいきなり読むのはかなり敷居が高いです。
もともと、未知の分野について基本書を読むのは骨が折れる上に単調・退屈で眠くなる作業ですので、それはそれとしてある程度は我慢しなければなりませんが、しかしいきなり本格的な基本書に挑んでも、三日坊主になってしまって読破できないのでは意味がありません。

そこで、各分野の基本書に取り掛かる前に入門用の本を読むことをお勧めします。

私が最初に読んだのは伊藤真の入門シリーズ(『伊藤真の憲法入門―講義再現版―』など)です。
私は伊藤塾に通ったことはありませんでしたが(2000年ころは仙台には伊藤塾はなかったので)、上記の入門シリーズは事項の羅列ではない口語体の講義形式で、各分野の大体のイメージを掴むためには非常に重宝しました。

ただ、こうした入門用の本を読むのは大体1回程度で構わないと思います。
ある程度イメージを掴むことができたら、少々自信がなくても基本書読解に取り掛かるべきです。受験生の時間は多くはありません。


 
最初に読む基本書
基本書というと、大体その年代ごとにメジャーな基本書というのがあるものです。
私が勉強を始めた当時(1999年から2000年)は各科目ごとにあげると大体下記のような基本書が最もメジャーでした。
(なお、当時は両訴必修の6科目なので、行政法はありません)

憲法 ― 芦部信喜『憲法』
民法 ― 内田貴『民法1』『民法2』『民法3』(当時は親族法・相続法は未出版)
刑法 ― 前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』
商法 ― 弥永真生『リーガルマインド会社法』「リーガルマインド手形・小切手法』
民訴 ― 上田徹一郎『民事訴訟法』
刑訴 ― 田宮裕『刑事訴訟法』

今の時代のメジャーな基本書とは少々違うかもしれませんが、当時は大体これらの基本書が一番人気だったと思います。

ただ、メジャーな基本書が必ずしも受験勉強の初期に適するとは限りません。
私も、他の多くの学生と同じく、大学1年生か2年生のうちに意気込んでこれらの基本書を買い揃えてみましたが、実際にはなかなか読めず、部屋の隅に文字通り積んでしまっておりました。

いずれも司法試験受験生に人気というだけあって情報量が大変に多いのです。
ですので、最初の前説の部分を読んだだけで何となく沢山勉強をした気になってしまって、本編を読もうと思いつつも、本編を読む気力が湧かず、長期間積んだままになってしまうという状況になってしまっていたのです。

受験生にとって基本書の良し悪しを決める最大の要素は『情報量』です。
何だかんだと言っても知っている論点が出れば有利だし、他の受験生が知っている論点を知らなければ不利になるので、なるべく多くの論点を網羅していて、かつ論述のヒントを与えてくれる基本書が非常に人気があったわけです。

しかし、初学者が情報量の多い基本書を無理に読もうとしてしまうと、かえって情報量が多すぎてオーバーヒートしてしまう可能性が高いです。

上記のようなメジャーな基本書は、受験勉強の中級以上の段階で読むこととして、まずは読破できる程度に読みやすい基本書を読むことが大事です。これは分量が薄いと言うことのみを指すわけではなく、基本的な論点をわかりやすく論述しているような易しいものであれば、多少分量が多くても構いません。

私が各科目について最初に読んだ基本書は以下の通りです。

憲法 ― 渋谷秀樹・赤坂正浩『憲法1』『憲法2』(有斐閣アルマ)
民法 ― 我妻栄・有泉亨・川井健『民法1』『民法2』『民法3』(いわゆるダットサン民法)
刑法 ― 大越義久『刑法総論』『刑法各論』(有斐閣Sシリーズ)
商法 ― 落合誠一・近藤光男・神田秀樹『商法2 会社』(有斐閣Sシリーズ)
民訴 ― 上原敏夫・山本和彦・池田辰夫『民事訴訟法』(有斐閣Sシリーズ)
刑訴 ― 上口裕・安冨潔・後藤昭・渡辺修『刑事訴訟法』(有斐閣Sシリーズ)


分かる人(同年代の受験生の方など)には分かると思いますが、いずれもハードカバーの分厚い本ではなく、文庫本を一回り大きくしたサイズの本ばかりです。
手軽に持ち運んで読めますので、少し暇な時間があればすぐ読むことが出来ます。
一つの法分野がコンパクトにまとまっているので、「いくら長大な法律と言っても、大体これを押さえておけば7、8割方は大丈夫なはず」という自信にもなります。

勿論、自分の読みやすい本であれば何でも構いませんが、とりあえず、まずは読みきれる本を買って、きちんと読みきることが大事です。

 
基本書の選び方
基本書の選び方ですが、買う時は読みきれそうなものを買うこと、また文章の雰囲気や紙面の構成で読みやすいと思うものを買えば良いと思います。

あまり、細かい学説などにこだわる必要はありません。
例えば、刑法総論の学説は大別して行為無価値か結果無価値かに分かれていますが、仮に行為無価値で司法試験に挑もうというつもりでも、読みやすい基本書であれば、結果無価値の基本書から読み始めても構わないと思います。
私自身、刑法総論は最終的には大谷實『刑法総論講義』(行為無価値)の学説で書きましたが、最初に読んだ基本書は上記の通り大越義久『刑法総論』(結果無価値)や、曽根威彦『刑法総論』(結果無価値)です。

一回目の基本書通読はその科目に対する慣れを作るために読むわけですから、あまりこだわる必要は無いです。

受験までに改訂されることもありますから、最新版の出そうな基本書についても、何も最新版が出るまで待つ必要はありません。

また、よくある現象として、書店で見た感じでは読めそうでも、実際に買ってみるとけっこう歯ごたえがあって読みきれないと言うこともあるので、大学に在学している方であれば、一旦大学図書館で試読してみるのも良いと思います。


 
古い基本書も有効
昭和や平成初期の基本書も、たまに読んでみると面白いものです。

大体にしてメジャーな基本書というのは、その時代の学説をリードしなければならないという役割からかどうかはわかりませんが、法改正、最新の論点や、最新判例、最新の実務的な問題にもかなりの紙数を割いていて、結果としてかなりの分厚さになっていることがあります。

メジャーな基本書ではなくても、最近の基本書の中には、予備校テキストを意識したのか自説以外の学説の内容を通説中心にかなり詳細に論述していたり、図表やカラーリングをふんだんに用いていたりして、かえって必要な情報が得づらくなっているものもあるように思われます。

古い時代の基本書は、法改正は勿論のこと、最新の論点・判例・実務には当然対応していませんが、その分、古典的な論点や過去の重要判例に関する記述が厚く、かえって最近の基本書よりも読みやすい部分があると思います。
例えば、公判前整理手続や裁判員裁判については、最近のどの刑事訴訟法の基本書を見ても言及されていますが、司法試験における論点としての重要性はさほど高くありません。そのような実務的・応用的な分野よりも、例えば、捜査関連で言えば強制処分法定主義と任意捜査の限界、公判関連で言えば伝聞法則と伝聞例外、といったような基本的かつ古典的な論点のほうがはるかに重要です。

私も、弁護士になってからですが、鈴木禄弥『民法総則講義』『物権法講義』『債権法講義』『親族法講義』『相続法講義』(いずれも創文社)を読みました。
上記のうち『親族法講義』は絶版ですが、インターネットで中古品を取り寄せました。
文章が簡明で論理的で、ゴテゴテし過ぎておらず、とても読みやすかったです。
学生時代に読んでおけばもっと民法の勉強が捗っていたかもしれないと思いました。

最近、団藤重光『刑法綱要総論』『刑法綱要各論』(創文社)も買いましたが、これも(言うまでもないですが)非常に優れた基本書です。

最新の基本書を取り揃えなければ受験勉強が出来ないわけではありません。
かといって、古い基本書を読まなければならないと言うわけでもないですが、最新の基本書が合わない方にはこのような古い基本書が合うこともあるかと思われます。


 

論文答案の練習

論文答案の練習
 
論証の構成
司法試験の論文試験における論証を練習してみましょう。

次の基本問題を例にとってみましょう。
刑法総論の「故意」の分野で、どの教科書にもあるような例題ですね。


例題

AはBを殺害するつもりでBに向けてピストルを撃ったところ、弾丸はBと、Bの向こう側にいたCに命中し、B・Cが死亡した。
Aがピストルを撃ったとき、ちょうどCがBの陰になっていたため、AはCの存在を知らなかった。
Aの、Cに対する罪責を検討せよ。


(補足:Bに対しては当然に殺人罪が成立します)


ここで答案(論証)を書いてみましょう。
大事なのはシンプルな論証をすることです。


1.具体的問題提起

「AはBを殺害するつもりでピストルを撃ち、Cまでも死亡させてしまっているが、Cに対する殺人罪が成立するか。」

「具体的問題提起」というのは、一般論ではなくその事件・その事例における問題、ということです。
問題文を一部引用しつつ簡潔に書きましょう。


2.法律的問題提起

「同一構成要件内ではあるが、予想外の客体に結果が生じた場合における故意の成否が問題となる。」

「法律的問題提起」というのは、事例を離れて、法律の(教科書の)どの論点が問題となっているのかということの提示です。
A、B、Cなどの問題文における特定個人や、「殺人罪」という個別の罪名を用いていない点に注意してください。


3.理由付け(論証の中心)

「思うに、刑法が犯罪成立のために故意(刑法38条1項)を要求するのは、構成要件に定められた規範に直面して反対動機を形成するチャンスがあったのにこれを無視して犯罪行為に及んだ者を処罰するためである。」

ここが「論証」の核となる部分です。
よほど自信があるのでなければ長々とは書かず、短くエッセンスをまとめましょう。


4.規範定立(法律的結論)

「そうだとすれば、予想外の客体に結果が発生した場合でも、行為者は構成要件に定められた規範に直面しているのであるから、同一構成要件内である限り、いずれの結果についても行為者に故意が認められると解すべきである。」

理由づけの結果として、自分がその論点を法律的にどういう方針で処理するのかを示します。
一般的には「規範定立」と呼ばれますが、2.法律的問題提起に対応しているので「法律的結論」と言っても良いと思います。


5.あてはめ(法律的結論から具体的結論を導く)

「本問においては、Aは、殺人罪(刑法199条)の与える『人を殺害してはならない』という規範に直面しているにもかかわらず、反対動機を形成することなく、ピストルを発射している。したがってAには、BだけではなくCに対する殺人の故意も認められることになる。」

法律的結論から、この問題に対する具体的な結論を導き出します。
実際の試験では問題文が長いので、この部分にいろいろと結論を導くために使えそうな事情を詰め込むことになります。


6.具体的結論

「よって、Aについては、Cに対する殺人罪が成立する。」

これで完了です。法律的結論とは異なり、「この事例」についての結論です。
複数の罪が成立する場合には罪数処理をしましょう。


論証は、部分ごとに分けると

1.具体的問題提起
2.法律的問題提起
3.理由付け(論証の中心)
4.規範定立(法律的結論)
5.あてはめ(法律的結論から具体的結論を導く)
6.具体的結論

具体的な問題提起と具体的な結論で、法律的問題提起、理由づけ、規範定立を上下から挟むという、サンドウィッチのような構造ですね。
「あてはめ」は、法律的結論と具体的結論との間の繋ぎとして理解してください。

今の論証をまとめるとこうなります。

(解答例)

AはBを殺害するつもりでピストルを撃ち、Cまでも死亡させてしまっているが、Cに対する殺人罪が成立するか。
同一構成要件内ではあるが、予想外の客体に結果が生じた場合における故意の成否が問題となる。
思うに、刑法が犯罪成立のために故意(刑法38条1項)を要求するのは、構成要件に定められた規範に直面して反対動機を形成するチャンスがあったのにこれを無視して犯罪行為に及んだ者を処罰するためである。
そうだとすれば、予想外の客体に結果が発生した場合でも、行為者は構成要件に定められた規範に直面しているのであるから、同一構成要件内である限り、いずれの結果についても行為者に故意が認められると解すべきである。
本問においては、Aは、殺人罪(刑法199条)の与える『人を殺害してはならない』という規範に直面しているにもかかわらず、反対動機を形成することなく、ピストルを発射している。したがってAには、BだけではなくCに対する殺人の故意も認められることになる。
よって、Aについては、Cに対する殺人罪が成立する。


これで一つの論証が完成です。

 

 
論証はシンプルに
上の例題で私が書いた論証は非常にシンプルなものです。
この問題に関するリーディングケースである最判昭和53・7・28刑集32巻5号1068頁の「犯人が認識した罪となるべき事実と現実に発生した事実とが必ずしも具体的に一致することを要するものではなく、両者が法定の範囲内において一致することをもって足りる」という重要フレーズも入っていません。
まして、反対説(具体的符合説や、法定的符合説の一故意説など)に対する言及もありません。

ですから、特に学者の先生などに私の論証を見せた場合には「全く不十分だ」と言われるかもしれません。

しかし、司法試験を受験する際には、このシンプルな論証を身に着ける必要があります。

まず、勉強の際の理由として、司法試験では、大量の論点を勉強しなければなりません。
ある論点について深く勉強することよりも、優先順位はあるにしても各分野の幅広い論点について勉強していかなければなりません。
全ての論点について判例や反対説まで含めて、完全にマスターすることなど、どだい不可能です。
各論点に関する勉強をなるべく「軽量化」しないと、各分野をバランスよく習得することなど(よほどの天才でもないと)できません。


そして、これは実際に受験した人ならわかると思いますが、実際の試験ではそこまで時間は多くありません。

私が受験していた旧試験の時代は、論文試験は1科目が2問2時間で、6科目でした。
刑法の場合は大体、刑法総論1時間、刑法各論1時間になります。
問題読解に10分、答案構成(骨組み作成)に20分、清書に30分弱、残った時間で最終チェックというスケジュールです。

新司法試験は多少試験時間が長いですが、問題文が長大なのでけっきょく時間がないのは同じことです。

そんな時間のない中で、論証にあまり多くの時間を割くわけにはいきません。
理由づけなどは最小限の分量でおさえて、答案を時間内にきっちりと完成させることが最優先です。
その場合の論証の理由づけなどは、「間違っていなければいい」という程度のものです。
そこで判例や反対説をたくさん書いてしまって、その問題固有の事情をあてはめに使えなかったなどというのは、力のかけどころを間違っているのです。


もう一つ、論証をシンプルにしておいたほうが良い理由があります。
司法試験では、判例や予備校の予想問題そのままの問題は出ないということです。
大体、判例の事例と少しずらしたような問題が出題されます。
その場合に、例えば判例の文章を丸暗記したような文章を書きつけても「出題の趣旨を理解していない(判例と少し違うところにどう対応するかを見たかったのに)」としてマイナスになる可能性があります。
まして、判例批判や反対説批判などを入れた時に、的が当たっていればいいですが、そうでないときは「本問ではこの判例は関係ないのでは?」とか「ここでは回答者の説と反対説は結論変わらないはず」とかでマイナスになる可能性もあります。
そして、自分の書いたことが出題の趣旨に沿っているかどうか、また判例批判や反対説批判が的を得ているかどうかを、試験時間内に、試験会場の緊張感の中で判断するのは困難です。

それゆえ、論証の分量は最小限に(最短距離で)、シンプルにしたほうが良いのです。

その関連で、受験雑誌などを見ると学者の先生が司法試験の参考答案を書いていたりしますが、私から見ると論証が長すぎです。
さすがに論理的に丁寧で答案自体は見事ですが、試験時間内に受験生が書ける答案ではないです。
予備校の模擬試験の模範答案も同様です。受験生にアラを指摘されないように気をつけているのかわかりませんが、過剰な分量になっているものがあったように思われます。
また、合格者が実際に時間内に書いて高得点を得た参考答案集というのもありますが、あまり読む必要はないと思います。
むしろ、それを読むくらいなら、予備校の基本問題集にあるような基礎的な論証を見ていくほうがよほど効率的です。

言い方は悪いですが、人それぞれに得意な論点があります。たまたま得意な論点が出た場合はラッキーで良い答案が書けることもあります。
ただ、その合格者が他の論点についてもそこまで良い答案を書けたかどうかはわかりません。

私が強調したいのは、アンラッキーで不得意な論点が出た場合でも、それなりの答案を書けるようにするための練習が大事だということです。
そのためには、書くための思考の手順を身に着けることです。
それができれば、あまり他人の書いた答案を読む必要はありません。
「自分もこんな答案が書きたい」と言って眺めているだけでは書けるようになりません。

各論点ごとに、自分なりのシンプルな論証を考えましょう。
最初は、多少間違っていたり雑でも構いません。後で修正すればいいことです。
誰かの作った文章を丸暗記するのではなく、自分の頭で考えだすことです。
知識を暗記するだけではなく思考して、その思考の中でさらに知識が定着していくのです。

もちろん、絶対に的を外さない自信があるのであればシンプルではなく、いろいろ詰め込んだ豪華絢爛な答案を書いても構わないと思います。
ただ、自分で名文を書いたと思っていても採点官の評価がそれに伴うわけではないというのは(それは司法試験だけではなく他のどんな仕事でもそうですが)、よく肝に銘じておくべきです。

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