私の場合、離婚事件については妻側の代理人を務めることと夫側代理人を務めることの割合が大体半々くらいです。
世に女性向けの離婚マニュアルや離婚相談は多いのですが、男性(夫)向けというのはあまり多くはありません。
男性(夫)向けに離婚協議の際の主な注意点を述べます。
1.暴力に訴えない
軽度であっても、暴力を振るった時点で調停も訴訟もかなり不利になります。
妻側によほど問題(家事を分担しない・不倫をした等)があっても、それに対して暴力を振るえば、普段からそうやって妻の意見を封じていたのではないかと疑われたりもします。
ただ、そのことを利用して、逆に夫を挑発して暴力を振るわせようとしたのではないかと思われる例もあります。妻が、夫が気づかない間に録音・録画をしていて、それを後日の証拠として出してくることもあります。
ですので、暴力は何よりも避けるべきです。
かと言って常に寛容な優しい態度でいろというのも無理なときがあると思いますので、そういう時は自分から距離をとるようにして、暴力が発生しないように気を付けるべきです。
もし万が一振るってしまった場合は、後で過剰な被害申告をされることを避けるために、事実として自分が何をしたのかを写真やメモ等で記録しておいたほうが良いと思われます。
2.面談拒否される場合は無理に話し合おうとしない
離婚調停等で、妻に直接面談すればわかってくれるはず、という男性(夫)は多くおられます。
しかし、直接の面談を求めることは避けたほうが良いと思います。
妻が離婚を切り出すときは、ほとんどの場合、突発的に思い付きで言っているのではなくて、本人の中で離婚を切り出そうとしつつも切り出せなかった時期を経てから言っているのです。
事前に弁護士等に別居の際の注意点や離婚時の財産的給付について相談している場合もあります。
離婚を切り出された時点で妻側の決意は固いのです。
それを話し合ったくらいで何とかできると思わないほうが良いですし、無理に話し合おうとして拒否されることで、かえってフラストレーションが溜まります。特に待ち伏せや執拗なメールがスト―カー扱いされ、調停や離婚で不利になることもあります。
私が見てきた事件でも、経済的な事情から離婚を考え直したケースや、別居後に夫の優しさ(話し合いではありません)に触れる機会があって元に戻ったケースがないではないですが、レアケースです。
3.妻側の家族や代理人が入れ知恵をしているという発想はやめる
上記と重複しますが、妻側の代理人(弁護士) や家族が入れ知恵をしているという発想はやめたほうが良いと思います。
無理に妻の実家(家族)に連絡して妻との面談を実現しようとしたり、相手方の代理人に妻との面談を強行に要求すること、いずれも離婚訴訟・調停で不利になる可能性があります。
妻側の代理人も務める者の経験からすれば、まず弁護士は(仕事欲しさに)無責任に離婚を提案したりはしません。前の項で書いた通り、養育費が必ず支払われる保証もありませんし、離婚により経済的に離婚前より不利になる可能性もあるからです。相談者の人生に大きくかかわる事柄である以上、相談者自身で決めるべきであると思うためです。代理人は離婚したいという明確な意向のある相談者について依頼を受けて法的なアドバイスをするのです。ですので代理人を責めてもどうしようもありません。
4.相手に不利、自分に有利な証拠は確保しておく
普段は生真面目な方ほど、調停委員や裁判官に対して「話せばわかる」と思っている割合が高いように思います。しかし、調停や訴訟においては証拠が重要です。証拠がないために冷淡な対応をされて憤慨する方も珍しくはありません。後々の訴訟を有利に運ぶために証拠を確保しておくなどということは正々堂々としなくて好きではない、という方もおられると思います。しかし口頭で述べただけで調停委員や裁判官を必ずしも味方につけられるわけではありませんし、たいていの場合、妻側は非常に周到な準備をしているということはご理解いただき、例えば下記のような証拠があるのであれば保管しておいていただいたほうが良いと思われます。
・ 妻の不倫・不貞があった場合、その証拠となるもの(メールや探偵の資料)
・ 夫婦喧嘩において妻が夫の人格を毀損する言動をする場合はその録音記録
・ 例えば妻に金銭感覚が欠如している場合は金融会社の請求書や買った品物の写真
・ 妻による嫌がらせ行為(わざと夫の洗濯物だけ洗わないなど)があればその証拠
5.親権争いは非常に厳しいことを心得る
未成年の子の親権争いにおいて夫は非常に不利です。特に子どもが幼い年齢である場合は母親が圧倒的に有利です。
ただ、妻が子を虐待していたり、放任で育児放棄している場合には夫側が親権に関して勝訴することもあります。他方、妻の育児に特段明白な問題がない場合には妻が勝訴しやすいことは心に留め置いていただければと思います。
親権について争いが激しい場合は家庭裁判所調査官による調査が行われることがあります。経済的な状況よりも、子どもの情緒的安定性や発達の面が重視される傾向があります。ですので、夫より妻のほうがはるかに低年収であっても、親権争いにおいて夫が有利になるわけではありません。
6.子がいる場合、養育費請求される可能性を常に視野に入れる
妻との間に未成年の子がいて、親権者にならない場合は、離婚時または離婚後に養育費を請求される可能性があります。親権については上記の通り基本的に母親有利ですので、養育費を請求される可能性は高いと考えたほうが良いでしょう。
養育費については慰謝料と相殺しうる性質のものではありませんし(和解において事実上相殺の取り扱いをすることはあります)、妻の権利ではなく子の権利ですから離婚時に取り決めない場合でも常に請求される可能性はあります。
7.公正証書に気を付ける
離婚時合意を執行認諾文言付きの公正証書(公証人役場で作成されます)にするよう求められることがあります。しかし、公正証書において何らかの義務を負う場合は気を付けてください。書かれたことは判決同様の強い効力を持ちます。訴訟にならないうちから敗訴判決を受けたと同じことになるのです。義務違反があれば、すぐに給与や土地が差し押さえられる可能性が出ます。公正証書の作成には安易な気持ちで応じないことです。