訴訟等の際に,当事者にて録音・録画した記録が有効な証拠となる場合があります。
勿論,録音・録画がなくても訴訟を行うことは可能です。
ただし,言った・言わないの問題になったときに,録音・録画がなければ水掛け論になってしまい,決着が見えなくなってしまうこともあります。
過去の事例を振り返ってみて「録音・録画があれば」と思われた事例も少なくありません。
例えば,分譲マンションの購入の事例を例にとってみましょう。
実は隣地に高層の分譲マンションが建設される計画が進んでいて,購入後にそのマンションが建設されて日当たりが悪くなり,購入者側が「説明を受けていない」または「隣地へのマンション建設は有り得ないと説明された」と主張し,他方で販売業者側が「その点は内覧の際に説明をして了解を得た」または「隣地へのマンション建設がないという断定的な説明はしていない」と主張しているとします。
このような場合,内覧の際に説明があったか否かが問題となりますが,裁判所は,当事者・証人に対する尋問の結果と,他の契約書や重要事項説明書の証拠を総合的に判断して結論を出すことになります。
このような時に,録音・録画がなければ購入者・販売業者ともいずれが勝訴するか不分明です。
重要事項説明書に,景観・日当たり変化の可能性が記載されている場合は販売業者有利とも見られますが,他方で,50人の購入者がいて50人とも同じ説明を受けたと証言した場合は,購入者側有利に傾く可能性もあります。
いずれにせよ,裁判所は,真実が判明するまで尋問を繰り返すようなことはしません。
民事訴訟は真実発見のためにするものではなく,その紛争に決着をつけるためにある制度です。
ですので,最終的によくわからない点があっても,その点について裁判官の心証と立証責任の分配(これについては改めて説明の項を設けます)に従った判断をするだけであって,真実がわかるまで訴訟を続けるというものではありません。
ですので,録音・録画無しで訴訟に臨むと,いずれの立場からしても,敗訴する可能性があります。
このような時でも,内覧の際の録音があれば,非常に有力な証拠となりますし,問題は一気に解決します。
ケースによってはそこまで鮮やかに問題解決というわけではないこともありますが,それでも録音・録画等の記録が全くない場合よりは争訟の方向性が見えやすくなりますし,メリットは大きいです。
録音と言えばかつてはカセット式のテープレコーダーでしたが,かさばる上に長時間の録音ができません。
現在では,家電製品店に行けば,USB接続のできる大容量かつポケットサイズのICレコーダーが1万円程度で購入できます。
そして,USB接続することでデータをコピーし,保管することも可能です。
争訟になりそうなことがある場合,またはそれでなくとも重要な契約ごとや話し合いの前には,備えておくと後々役立つことがあるかもしれません。
もちろん,私企業も,例えば不当なクレームに備えるために契約時のやり取りを録音しておくことは有効な対策となるでしょう。
なお,無断録音が許されるのか心配される方もいらっしゃいますが,私人(法人含む)が行う録音は,基本的には犯罪ではないですし,相手の了解を得ていなくとも適法と考えていただければ結構です。
裁判所の法廷や留置所・拘置所の面会室など,公の情報管理の観点や治安確保の観点から録音自体が禁止されている施設での録音は禁止されていますし,また,他人同士の会話を盗み聞きするようなかたちでの録音は違法とされる可能性もあります。
ただ,それ以外の場合で,電話通話にせよ,あるいは直接対面での会話にせよ,自分と相手との会話を断り無く録音することは基本的には違法とはなりません。
勿論,それを何らかのかたちで不特定多数に公開することを予定した取材等の場合は許可が必要ですが,公開を予定せずただ記録及び裁判の証拠に用いる場合は問題とはなりません。
また,依頼や法律相談の前に,録音の内容で自分に不利な発言が録音されていると思った場合でも,記録を消去したりせず,まずは弁護士にもその記録を聴かせていただければと思います。
自分では致命的と思っている発言が弁護士の観点からすれば何の問題もないということもありますし,また,会話の中の何気ない一言が重要な事実を証明する証拠となることもあるからです。
例えば,言い争いの際に自分が発した口汚い一言が録音されているとしても,相手も相手でそれなりの罵詈雑言や挑発的な言葉を発しているのであればそう大きな問題にはならないことが多いです。一人で判断せず,まずは弁護士に相談していただければと思います。
録画に関しては,録音ほど手軽ではなく,また相手側の心理的な抵抗も大きいでしょうから,録音の場合よりは慎重に考える必要があります。
無断での録画が許容されるのは,録画でないと証明になり得ない場合(例えば,配偶者の不倫現場を発見したが録画以外に証拠を保存する手段がない場合),または,録画する行為自体がトラブルの抑制に繋がる場合(例えば,暴力団員風の者が自分の経営する店舗に押し掛けて不当なクレームを付ける場合,相手の意向に関わらずビデオカメラを取り出して録画しようとすれば,相手も無茶な行動・言動はできなくなります)等でしょうか。
勿論,将来有利な証拠になるかもしれないからと言って何でもかんでも録音・録画するというのは,まだそこまでの訴訟社会化を見せていないこの国の文化を考えれば,常識に外れてしまうことにもなります。
例えば,夫婦喧嘩をする度に,将来の離婚訴訟に備えるためということで夫婦の口論の内容を全て録音する等というのは,相手に対する配慮を欠くだけではなく,かえって信頼関係の崩壊と事態の悪化を招くことにもなるでしょう。
また,いつでもどんなことでも争訟に発展するかもしれないということで常に気を張っているというのも無理な話です。
ただ,やはり「裁判になるなんて思ってもみなかった…」ということで,録音・録画をしておけばよかったと悔やむ方がいらっしゃるのも事実です。
何らか争訟に発展しそうなことがあるとき(例えば交通事故その他不法行為の示談交渉や,相続・離婚問題など),重要な契約及びその契約に関する説明をするor説明を受ける時,録音・録画をしておくことは,後々の有効な立証手段となることがあります。
法律とは別分野のとある本に書いてあったことの受け売りですが,こういった備えというのは「無駄に終わればそれが一番良い」ものです。
争訟になど発展しないのが一番であることは当然です。
ただ,残念ながら,その後の経過次第では無駄ではなくなってしまうこともあるということです。
長くなりましたが,争訟に発展しそうなことがあるときは,重要な局面で録音・録画をしておいていただけると助かることがあります,ということで,この項をまとめます。
前田誓也法律事務所
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