「司法試験の心構え」と銘打っておいて「精神論にはしりすぎないこと」というのも矛盾しているようですが、精神論にはしりすぎないことが大事な心構えであるという趣旨です。
ここでいう精神論とは、一つは「絶対受かるぞ」と言って自分にプレッシャーをかけるということです。
これはあまり良くないです。
厳しい競争試験である以上、「絶対受かる」ということは有りえません。
無駄に熱くなって、問題の大事なポイントを見落としてしまったら悔やむに悔やみきれません。
勝ちと負けがあるから勝負事は面白いのだ、くらいに頭を切り替えたほうがいいです。
例えばサッカーなどのスポーツで「みんな勝ち」だったら面白くないですね。
勝利に歓喜する者と敗北に涙する者がいるからこそ、見ごたえのある人間ドラマが生まれるわけです。
何もドラマを作るために試験を受けるわけじゃないぞと思われるかもしれませんが、そのくらいに考えておいたほうが変な空回りをしなくて済むという趣旨です。
もう一つ「自分はできるんだ・受かるんだ」というのも良くないです。
本当にできるんならそんなことを敢えて自分に言い聞かせなくても十分合格するでしょう。
勉強不足を妙な自己暗示で埋め合わせようとしても、試験会場で難しい問題に出会った瞬間、そんな自己暗示は吹き飛んでしまいます。
試験前で不安になる気持ちはわかります。
そんな不安から逃げるために「俺は大丈夫なんだ」と自分に言い聞かせたくなる気持ちもわかります。
でも、そこは敢えて自分の不安を直視すべきです。なぜ不安になるのか。
おそらく、直前の模試の点が低かったとか、あるいは苦手な分野があってそこを出題されたら落ちそうとかそういうことでしょう。
それであれば、低い点のついた模試をざっとでもいいので復習するとか、苦手な分野を薄い基本書で最低限のところだけ読み返しておくとか、具体的な勉強をして不安の源を解消すべきです。
自分の不安から、下手に目を背けないことです。
あと、逆の極端として「どうせ落ちるから気楽に行こう」というのも良くないです。
実際に、試験前になぜか試験科目と関係ない勉強をしたり、受からない方向に自分を持っていこうとする人もいます。
これも良くないです。
要するに「どうせ駄目だ」と自分に言い聞かせることで、本当に負けた時の精神的な打撃を少しでも和らげようとしているのです。
しかし、真剣に臨んで敗北するのと、あまり努力しないで敗北したのとでは得るものが違います。
試験問題との真剣な格闘は、結果的に不合格になった者に対しても多くの示唆を与えてくれます。
自信がないからといって逃げてしまわず、試験という師匠に胸を借りるつもりでぶつかってみるのがいいです。
真剣に臨んで敗北した場合は、後悔も少ないです。多少はああ書けばよかったとかこう書けば良かったというのはありますが、自分の姿勢について後悔することはありません。仮に司法試験を諦めて転身するにしても、きっぱりと諦めきれるでしょう。
あまり努力しないで敗北した時の心に去来するのは、敗北感以上に「もっとやれたんじゃないか」という気持ちです。納得の敗戦ではなくなってしまうので、仮に転身するとしても未練を残したまま転身することになります。
さらに、これも結構難しいかもしれませんが「完全燃焼」とか「自分の全力をぶつける」というのも、行き過ぎると良くないです。
試験問題というのは、予備校の問題とは少し違います。
予備校の問題は(私が知る限りは)学習の到達度を図るためにあります。出題の意図をそう深く考えなくても、大体この論点だろうというところで判例の提示とか論証をすれば点はくれます。特に直前期の論文式模試は、景気づけということなのか、比較的論点の見えやすく書きやすい問題が多いように思われます。
しかし、司法試験の問題は、そうではないです。
出題意図を読めるかどうかが勝負、というのは昔から良く言われることです。
大事なのは、自分の全力をぶつけることではなく、問題をきちんと分析して、適切な論理を展開することです。
ここで「完全燃焼!」とか「自分の全力をぶつける!」と意気込み過ぎている人は、多少論点がずれていても自分の得意な(たくさん書ける)論点に引っ張り込んでしまって、文字通り全力で記述するも実は出題の趣旨を外していた、ということになりかねません。
「完全燃焼」も「自分の全力をぶつける」も、いずれも自分中心に考えすぎなのです。
試験は、自分の実力を発揮させてくれるために存在するわけではありません。
あくまで出題者基準、「他人の土俵」なのです。
他人の作った迷路を解くような感覚で、慎重に問題を分析しましょう。
「全力で!」と言いすぎる人は遊園地にあるアトラクションの迷路の壁を飛び越えて進む(失格)のと同じです。
結局適度にリラックスして冷静に臨むのが一番良さそうですが、最後に「普段通り」「リラックス」と思いすぎるのも良くないです。
自分の将来がかかっている以上、普段通りの気分で行けるわけがないからです。
私も、論文試験の時は物凄く緊張しました。
最初の科目である憲法の問題用紙が配布されて試験開始の号令があるまでの間、ずっと緊張して頭は真っ白、心拍数が自分でもわかるくらい上がっていたのを、今でも覚えています。
ただ、問題を開いた瞬間からは、すっと問題に入っていくことができました。
緊張はしていましたが、試験前に緊張しきっていた分だけ、試験開始後は少し収まったような感じでした。
心の準備ができていないと、いかにリラックスしていても難しい問題を見た瞬間に頭が真っ白になってしまうでしょう。
適度に緊張するのもだいじなことです。
いろいろ言いましたが、けっきょくどうすればいいのかといえば、とりあえずあまり精神論的なことを言わず、自分を追い込み過ぎず甘やかしすぎずで、地道に勉強をしていたらそれでいいということです。
「必勝」などないのですから、人事を尽くして天命を待つくらいの心境で着実に頑張りましょう。
前田誓也法律事務所
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