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刑事弁護

 

保釈について

保釈について
 
保釈について
保釈について、インターネットのニュースなど見ていると誤解のある部分が多いと思います。
 
保釈は、基本的には「権利」として認められるものです。
被告人には、近代刑事法の大原則として等しく無罪推定の原則がはたらきます。
捜査機関から有罪と見込まれているだけでは原則として自由を拘束することはできません。
ただ、全く身柄を拘束できないとすると逃亡や罪証隠滅(被告人が証拠に接触して証拠を隠匿・毀棄してしまうこと)のおそれがあるので、例外的に身柄拘束が認められているのです。
ですので、勾留(身柄拘束)は原則であってはならず、できれば回避されるべきものです。
 
刑事訴訟法89条は「保釈の請求があったときは次の場合を除いては、これを許さなければならない」と定めています。
原則が保釈すべきで、例外的に権利では保釈できない場合が定められているのです。
例外とは重大犯罪で訴追されている場合や、常習である場合、そして逃亡や罪証隠滅のおそれのある場合等です。
この権利保釈の例外事由がないのに、裁判官のほうで勝手に保釈を却下することはできません。
 
そして、仮に例外事由があった(権利保釈できない)としても、刑事訴訟法90条は「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる」と定めています。
権利ではないものの裁判所が申立てを受けて適当と認めたときは保釈するというもので、これを裁量保釈と言います。
 
この場合、裁判官の判断により保釈されることとなりますが、やはり無罪推定の原則に則った適正な運用が期待されていると見るべきでしょう。
インターネットの議論を見ていると「悪い奴なんだからきちんと捕まえておけ」という議論が目立ちますが、本当にそれをやってしまった場合、近代刑事法以前の中世的な(必罰主義的な)刑事司法に戻ってしまうことになります。
 
なお、第一審(地裁・簡裁)で有罪判決が出た後、控訴があった場合の(高裁段階の)保釈に関しては、無罪推定の原則が後退しており、権利保釈制度の適用はなく裁量保釈の可能性があるのみとなります。
 
2016年(平成28年)の刑事訴訟法改正により、裁量保釈の判断基準が上記のとおり明確化されました。
近年保釈が増加しているという報道がなされていますが、裁量保釈の条件が明確化されたことも影響していると思われます。
個々の裁判官が恣意的に保釈を増やしているわけではなく、法改正に伴う変化の時期が来ていると見るべきでしょう。
 
 
保釈保証金と日本保釈支援協会
保釈に当たって裁判所に納付する保証金は、事件の規模等にもよりますが、通常の事件だと概ね150万円~300万円くらいのことが多いという記憶です。
事件の性質によっては100万円くらいのこともあります。
被告人が裁判手続の最後まで違反なく出廷すれば、保釈保証金は全額返還されます。
 
ほとんどの被告人は保釈保証金を自力で準備することはできませんので、親族や友人に支出を依頼することになります。
親族や友人でも負担できない時は、「日本保釈支援協会」という民間の協会に頼むことになります。
この「日本保釈支援協会」は私も自分が担当した刑事事件の際に、被告人の親族に利用してもらったことが何回かあります。
 
端的に言えば「日本保釈支援協会」の支援内容は、一般に言う「融資」にかなり近いものです。
被告人本人ではなく、被告人の親族などに保釈保証金を「支援」して、保釈保証金の納付を可能とするものです。
万が一、「支援」を受けたケースで保釈保証金が裁判所に没収されれば、その「支援」を受けた者が金銭的な責任を負うことになります。
また、利用額や利用期間にしたがった手数料がかかります。
保釈保証金の「支援」に先立って審査もあり、審査を通らない場合や、一部の「支援」しかされない場合もあります。たとえば「裁判所から定められた保釈保証金300万円のうち、200万円は支援するけど100万円は自前で用意してください」というような審査結果になることもあります。
この点、ノーリスクで全額利用できると誤解している被告人や親族もいるので、この点は、支援利用の希望があった際には、いつも丁寧に説明するようにしています。
 
ただ、何の担保もなしに300万円貸し付けるような消費者金融業者は普通はいないことを考えれば、一挙に多額を支援してくれる日本保釈支援協会の存在は、弁護人にとって基本的にはありがたいものです。
 
 
身元引受人
保釈請求に際しては、身元引受人となる親族による「身元引受書」「確約書」「誓約書」のような文書を提出することが慣例となっています。
これは法律上の要件ではありません。
その意味で書式は問わないのですが、被告人に逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを裁判所に示す必要があるので、基本的には保釈請求の際は必ずつけるようにしています。
配偶者や同居親が身元引受人になることがほとんどです。
保釈は身柄拘束からの解放ですから、保釈されている期間中、四六時中ずっと見張っていることはどだい不可能です(仮に同居していても、就寝中に出て行かれる可能性などもあります)。
ただ、身元引受人がいるなら逃亡したり罪証隠滅のおそれはないだろう、しっかり監督してくれるだろうという前提で保釈を判断してもらうわけです。
 
そして、被告人が逃亡したような場合だけがニュースになってしまうのですが、圧倒的多数の事件では被告人自身も保釈危難中は身元引受人の監督を受け、しっかりと裁判所に出廷してくれます。
私が過去に担当した事件で保釈保証金が没収された例はありませんし、大抵の弁護士も同じはずです。
被告人自身、保釈保証金を家族の負担で納付している以上家族に迷惑はかけられないという意識があるのでしょう。そこは皆さんきちんと理解してくれているという印象です。
 
一部、逃亡するような人間がいるせいで、保釈制度そのものに対して批判的な意見が出るのは残念な事態というほかありません。
 
 
保釈条件について
2019年12月31日、カルロス・ゴーンがレバノンに出国したことが明らかになりました。
カルロス・ゴーンの保釈に関しては、監視カメラによる自宅出入りの禁止や携帯電話・メールの原則的使用禁止など厳しい条件が付されたことが話題になりました。
 
保釈条件とは「携帯電話を使用しない」等、保釈中の生活にあたって順守すべき条件のことです。
 
保釈条件も、身元引受人と同じく法律上の要件ではありません。
ですので、私は弁護人として保釈を申し立てる際には、逃亡や罪証隠滅をしないことは当然、保釈請求書の文中で説明するとして、保釈「条件」というかたちではあまり提案しません。
 
そもそも被告人が捜査段階から罪を全面的に認めて自白しているような場合、また公判廷でも同じく自白したような場合、その後は罪証隠滅の恐れはないことになります(もう自白しているから今さら証拠を隠滅しても意味がない)。また、家族が身元を引き受けるなら逃亡するおそれも基本的にはないことになります。
ほとんどの事件ではそれで十分なはずです。
 
保釈条件を弁護人自ら提案するのは、身元引受人だけでは罪証隠滅や逃亡のおそれが否定できない時に、それでも保釈を引き出す(裁量保釈を取りに行く)ためのテクニックのような面はあると思います。
 
カルロス・ゴーン弁護団の高野隆弁護士も、刑事弁護OASISというサイトにある対談記事でゴーン保釈に当たっての保釈条件の提案を「苦肉の策」と表現しています(なお、カルロス・ゴーンの2回目の保釈の際には裁判所から、弁護団が提案したよりも厳しい15の保釈条件が付されたようです)。
 
 
カルロス・ゴーン事件についての感想(2019.12.31)
2019年12月31日、日産に関連した特別背任等の事件で被告人となっていたカルロス・ゴーンがレバノンに出国していたことが明らかとなりました。
 
これに関連して、インターネットの言説(匿名含む)には「弁護団は責任を取れ」という論調が見られます。
しかし、ここは、まず、弁護団がカルロス・ゴーンを保釈するために受け入れた保釈条件を守っていたか否かを確認すべきところです。
守っていなかったのなら批判されてしかるべきところかもしれませんが、もし保釈条件を守っていたのであれば弁護団が責任を問われる理由もないはずです。
 
現在報道されている「楽器のケースに隠れて出国」という方法が本当であれば、それは、カルロス・ゴーンの自宅を監視カメラで監視することを保釈条件としていた弁護団すら欺く方法だったことになりますので、カルロス・ゴーンは弁護団と何の調整もなく(保釈条件をかいくぐって)出国したことになると思われます。
 
カルロス・ゴーンが保釈条件を破って出国したこと自体は批判されてしかるべきです。
このせいで、他の事件でも保釈がしづらくなることを一弁護士としては強く懸念します。
 
 
ただ、最初の、一回目の保釈後に被疑事実を変えて再逮捕・勾留に持ち込んだ特捜検察の手法(これは日本の捜査機関の伝統的な手法に則ったものなので、このような長期身柄拘束ができる制度を現代にいたるまで根本的に見直さないまま来てしまったところが日本の刑事司法としては反省すべきところだと思いますが)、このような長期身柄拘束の手法を前提とした日本刑事司法の在り方が、カルロス・ゴーンの不信、ひいては海外の批判を招くこととなり、カルロス・ゴーンを、日本からの出国に向けて勢いづけてしまった面はあったのではないかと思います。
 
 

刑事弁護について

刑事弁護について
 
刑事弁護がなぜ必要か
刑事弁護をする者のことを「弁護人」と言います。
弁護士というのは職業の名前で、弁護士が刑事弁護に携わるときに「弁護人」となります。

刑事弁護というのは、おそらく弁護士の仕事の中でも、というか、世間にある仕事の中でも、その意義が理解されづらい仕事の一つかと思います。
インターネットの掲示板などを見ると「なぜ悪人を弁護するのか」という意見や、もっと過激なのになると凶悪犯罪者の弁護人について「そんな悪人を弁護する弁護人も一緒に死刑にしろ」というような言説も見られます。

しかし、弁護人選任権は憲法によって人権の一つとして定められており、また刑事訴訟法により一定以上の重さの事件(窃盗・傷害など)の裁判については必ず刑事弁護人をつけなければならない決まりになっています。被告人が経済的な事情等により自分で弁護人を選任できない場合は国選弁護人が就きます。
なぜ弁護人は必要なのでしょうか。

刑事弁護の意義の一つはえん罪(冤罪)の防止です。
逮捕され、訴追された者(被告人)にも無実の者が含まれている可能性があります。
歴史上、凶悪事件の犯人を捕まえて、自分はやっていないと主張するその人間を処刑した後で真犯人が名乗り出たという例もあります。
そのようなえん罪事件が一つでも生じてしまうと、その処刑された人間の命が戻らないことも勿論ですが、司法制度に対する根本的な信頼が揺らぐことにもなります。

もう一つは、適切な量刑のための情状の主張です。実際には一番多いのはこの情状立証です。
同じ犯罪を犯した者でも、その者にどの程度の罰を科すべきかということは異なります。
例えば、金目当てで無関係の人を殺害した者と、日ごろいじめられていたために耐えかねて相手を殺害した者とでは、どちらも同じ殺人犯であり到底許されることではないですが、適切な量刑は異なるでしょう。また、金目当てであっても、主導的に犯行を実行した者と、その主導者に命令されて逆らえず加担した者とでは、適切な量刑は異なるでしょう。
そして、被告人が全く反省せず謝罪もしない場合と、反省して被害弁償もしている場合とでは、これも適切な量刑は異なるでしょう。
裁判官に、その被告人にとって適切な量刑をしてもらうために、被告人の動機等に同情すべき部分があればその部分を主張したり、被告人の反省や被害弁償があればその点を主張することになります。

そして、副次的な事項と言えるかもしれませんが、違法捜査の抑止という意義もあります。
これはいずれ「法律学小講座」に「刑事訴訟法」の項を設けて書きますが、捜査機関の捜査手法について違法な点があり、その違法があまりにひどい場合には違法収集証拠排除法則ということで、集めた証拠の証拠価値が否定されることがあります。弁護人は、違法捜査の可能性がある場合には違法収集証拠の排除を求めることになりますが、これが捜査機関の違法捜査を抑止する結果に繋がります。

弁護人がいない、あるいは、弁護人が存在したとしてもまともな弁護をしてくれない社会では、えん罪の可能性が高まってしまいますし、また過剰に厳しい刑が下されることになり得ます。また違法捜査が抑止されない事態も生じ得ます。


ただ、こういった説明では必ずしも納得いかないかもしれません。
「そんなこと言っても結局は黒を白という仕事なのでは…」という感覚をお持ちの方もいるのではないでしょうか。私も弁護士になるまでそういう感覚でいましたし、今でも、そういう感覚をもたれても仕方ない面もあるのかなと思います。

次項以降で、刑事弁護に関する雑多な話や、実際に刑事弁護をしてきた感想等を書いていくことにしますが、その中で、何となくでも、刑事弁護というものに対するイメージを持っていただければと思います。

 

刑事弁護(捜査対応)

刑事弁護(捜査対応)
 
取調べの怖さ‐取調べと公判廷は全く違う‐
取調べと公判廷(刑事事件が行われる裁判所の法廷)には,幾つかの大きな違いがあります。
一つは,取調べは警察官や検察官が行うが,公判廷は中立な裁判官(裁判員)が行うこと。
次に,取調べは非公開の密室で行われるが,公判廷は誰でも傍聴できる公開法廷で行われること。
さらに,取調べは弁護人の立会いが認められないが,公判廷では弁護人が被告人をサポートできること。
そして,さらにもう一つ実務的なことを言えば,取調べ(被疑者)の段階では被疑者は警察官がどんな証拠があるか見ることはできないが,公判廷では裁判所に提出される証拠は全て被告人や弁護人も見ることができること,です。
 
この最後のポイントが非常に重要です。
在宅調べとならない典型的な刑事事件では,被疑者が逮捕されてから起訴されるまでの最長23日間に取調べ等の捜査が行われるわけですが,この間は被告人は,どんな証拠が集まっているかを見ることができません。そして,弁護人も同様です。
 
ですので,逮捕された方と最初に接見した弁護士も,警察がどんな証拠を集めているのか全く分かりません。
例えば痴漢事件で無実を主張したい場合でも,警察は,逮捕するからには当然,被害者(と名乗る人)の証言(供述調書)くらいは揃えているだろう,とは推測できます。
しかし他にどのような証拠を警察が揃えているのか,その被害者の証言しかないのか,あるいは他に目撃したと主張する人がいるのか,いるとして誰なのか,それとも何か被害者の衣服に被疑者のDNAでも着いていたのか,当時の社内の状況を撮影していた防犯カメラでもあるのか…。このあたりがわかりません。
取調べでは,取り調べる警察官や検察官は当然,その時点までの全ての証拠を把握しています。
ですので,被疑者はいとも簡単に追い詰められてしまいます。
 
取調べの際に一番怖いのは証拠を見なければわからないような質問を受けたような場合です。
公判廷であれば,被告人は裁判所に提出された証拠,つまり主要な証拠は,被害者・目撃者証言も含めて概ね見ていますから,弁護人と打合せの上,自分なりによく記憶を復帰して組み立てて答えることができます。
しかし,取調べの場合だと,警察が本当にその情報を知りたくて確認しているのか,それとも後で「虚偽の弁解をしている」という材料に使うための泥船なのか,全く読めません。
近年,多くの事件で,逮捕された被疑者が「黙秘」するのはこのためです。
証拠を揃えている(かもしれない)捜査機関に,無用な揚げ足をとられないための防御策です。
 
やっていないなら弁解すればいい,というふうに思われるかもしれませんが,例えば自分はやっていないという場合でも,周囲の物事の全ての経過を記憶している人など,被疑者でなくともまず,いないはずです。
例えば,ある日に帰宅する途中にコンビニエンスストアに立ち寄ったことがあるか,立ち寄ったとしたらどこのコンビニエンスストアか,ということを一週間くらい経ってから何も見ずに思い出せと言われてもできない人は多いでしょう。警察や検察は事件があれば関連するレシートも防犯カメラもGPSも証拠として押さえますから,情報格差はやはり生じるわけです。どこに立ち寄ったかなど一見関係なさそうなところで揚げ足を取られて精神的に追い詰められる材料となることもよくあることなので,被疑者は,最大の防御手段として「黙秘」するわけです。
 
ここまで説明した通り,警察官や検察官は証拠を見て周辺的な事実関係を「こうだ」と確認してから取り調べているのに対し,被疑者は「こうだったかな…」というあやふやな状態で供述せざるを得ないのです。
取調べがどれだけ可視化されても,取調べは被疑者にとって圧倒的不利であることの理由です。
 
これが,自由に議論できる場所であれば「そちらばかりが情報を独占しているのはおかしいでしょう」と言い返すこともできます。それがまさに公判廷です。
しかし,取調べは大抵の場合,自由に帰っていいよという取調べではなくて,逮捕・勾留という状況下でなされています。
 
身に覚えのない痴漢えん罪で逮捕されたときの心境を想像してみれば(会社には逮捕されたことがバレているだろうか…,ローンの返済は…,家族は,娘はどう思っているだろうか…,もし報道されていたら親戚から何か連絡が来ているだろうか…,裁判をしたらどのくらい時間と金がかかるだろうか…,来年度に予定されている海外出張は…等々),不安と恐怖で一杯なことはお判りいただけると思います。
 
そのような状況下で証拠も見せられず連日,理詰めの取調べを受ければどうなるでしょうか。
特に性犯罪事件の場合は,被疑者の自宅PCのハードディスクやインターネットのアダルトサイト閲覧履歴まで,警察は全て調べることがあります。
別に殴られたり脅されたりしなくとも,「やってないけど,やったと言って示談してしまったほうが…」となってしまう人もいるのではないかと思います。
実際にこの懸念が実現してしまい,無関係の市民にえん罪で処分が下されてしまったのが,「パソコン遠隔操作事件」です。
 
取調べ,特に身柄拘束をしての取調べはそれ自体が多分に人権侵害的な契機を含みうるものなのです。
「自分はやっていない」あるいは「そこまではしていない」という被疑者は多いのですが,そのような被疑者は,物理的な加害を受けなくても,精神的にはサンドバッグ状態で取り調べに晒されます。
その中で気の迷いや精神的疲弊から「私がやりました…」と言わされてしまう場合もあるでしょう。
上記の「パソコン遠隔操作事件」がその例です。
自白をした被疑者には捜査機関はとても優しく接しますから,嘘でも自白をしたらもう覆せない気分になってしまったと推察されます。
 
そのような取調べの状況を録画したものを公判廷で流せば有罪がとれてしまうというのでは,公判廷は取調べの「上映会」となってしまい,被告人(弁護人)も自分の言い分を原則としてフルに主張して検察官と議論を戦わせることができる,裁判官のみならず一般市民にも傍聴人という立場で人権侵害や不当な引っ掛けがないかを監視してもらえる,という公判廷のメリットが全くなくなってしまいます。
 
ですので,取調べの録音・録画による有罪立証は問題があるのです。
今市事件の東京高裁判決は,公判廷が取調べの録音・録画の「上映会」と化してしまうことを防ぎ,取調べの録音・録画は自白調書の任意性を確認するための手段としてのみ位置付けたことはその点で高い意義があります。
 
しかし,法制度レベルでは刑事訴訟法の対応は未だ不十分であり,えん罪を生まない社会の実現(人権保証)の点からすると,今後は,取り調べへの弁護人立会い権・捜査段階での証拠開示等を法制化していく必要はあると思われます。
 
 

刑事事件と被害弁償

刑事事件と被害弁償
 
財産犯の被害
刑事弁護人として多く行うことになる仕事は、被害弁償です。
 
被告人が犯罪事実を認めている事件に関しては被害弁償を行うことが、量刑を軽くするために重要になることがあります。
特に、窃盗や詐欺など、金銭的な被害を出している事件(財産犯)においてはそうです。
これに対して、殺人や性犯罪など、身体的・精神的な要素の強い被害が出ている事件においては、事情にもよりますが、被害弁償がほとんど意味をなさないのではないかと思われる事件もあります。ただ、それでも弁護人としては、被告人と相談して少しでも慰謝料の趣旨で弁償をする努力をすることになります。当然、被害弁償の打診のために電話を掛けると「お金で解決するつもりですか」と不満を言われることもあります。ただ、被告人が直接土下座して謝罪しても何の慰めにもならないことも多いと思われますし(かえって神経を逆撫でする結果にもなりうると思います)、金銭で謝罪の意を表すほかないというケースが多くあります。
 
ここからは財産犯(詐欺・窃盗など)に話を絞ります。 
犯罪被害に遭ったお金というのは、なかなか返ってこないものです。
例えば食うに困って1万円入りの財布を盗んだ被告人が、逮捕後に被害金1万円を返還できるかというとそういうことは少ないです。大抵の場合盗んだ後はすぐに使ってしまっているからです。現行犯逮捕でもない限り、盗んだ金をそのまま全額返すことのできる被告人はなかなかいません。
 
もっと深刻なのは、振り込め詐欺を含む詐欺事件です。
ここ2,3年ほどは詐欺事件の弁護人をすることが多かったのですが、被害金額が数百万という事件が珍しくありません。しかし被告人はその金銭を使い切ってしまっているので、到底返すことなどできません。何とか被告人の財産を処分したり貯金をはたかせたりして少しでも返す努力はするのですが、被害金額に比べれば微々たる金額にしかならないことが多いのです。
もっと怖いのは組織的な振り込め詐欺の場合で、受け子という末端の者がお金を得た段階で手渡し・振込を多用して、到底追いかけられないようなところまでお金を移動してしまいますので、回収は事実上不可能になります。受け子や電話をかけている人間などは地位としては低いところにいる(ごく一部しか分け前をもらえない)ので、 捕まえたとしてもそれでお金が確保できるわけではありません。
 
外国はどうかわかりませんが、日本には、犯罪被害に遭った人の金銭を国が取り返したり、補償するような公的な制度はありません。
何となく、警察が犯人を捕まえてくれれば詐欺でも窃盗でも、被害に遭ったお金は全額返ってくるのではないかと考えておられる一般の方も(特にご高齢の方に)多いようですが、これは大きな誤解です。
警察は犯人を捕まえ、取調べなどの捜査はしますが、盗んだお金を返せとまで言い渡す権限はありません。罰金も、国に対する支払であって被害者に対する支払ではありません。例えば、盗んだ金で車を買った場合、その車を売却させて弁償させるなどということは、刑事司法の枠組みだけでは不可能です(民事事件として裁判所に訴える必要がある)。
多くの場合、被告人が不法に得たお金を返すかどうかはひとえに被告人が口座等に持ち合わせている金額と誠意にかかっています。しかし、お金に困るからそんな犯罪をする被告人がほとんどなので、お金はまず残っていません。したがって、基本的に犯罪の被害に遭った場合、お金が返ってくる率は低いのです。
 
ちなみに、各銀行(金融機関)ではキャッシュカードの盗難補償制度が設けられています。キャッシュカードを盗まれ口座の預金も盗まれたという場合、この盗難補償制度を利用すれば被害に遭ったお金が一部でも返ってくる可能性はあります。
ただし、これはお客様に対するサービス、あくまで各銀行にて任意に行われている対応であって、公的な制度ではありません。利用している銀行が偶々そういう補償制度を設けていないからと言って法的におかしいということはありません。
 
 
 
なお、一般の方の意識について言及しましたのでついでに申しあげると、「自分はそんなにお金持ちじゃないから詐欺になんて狙われない」と考えている方も多いようですが、実際に刑事弁護をやってみると、犯罪をするほうも、そんなに綿密に調査して狙いを定めているわけではないというのが良くわかります。窃盗であれば盗みやすいところにあるものを盗む、詐欺であれば、金額はともかく騙しやすそうに見える人を探して騙す、それだけのことで、相手が金持ちかそうでないかなど、ほぼ気にしていない被告人が多いという印象です。
 
最後に、被害弁償の交渉についても少し付け加えます。
弁護人が就いているうちは被害弁償も一生懸命やりますが、これは量刑を軽くするために行っている側面があるので、量刑が決まった(判決が確定した)後でも被告人が被害弁償の取り組みを継続するかどうかはわかりません。判決が確定すれば弁護人も職務終了しますので、その後の被害弁償を行うかどうかは被告人次第です。
もちろん、弁護人が何も言わなくても被告人が自主的に返していくのが一番であることは間違いないですが、何よりも被告人に必要なのは、再犯をせずに済むように生活を建てることですから、本人に悪気がなくても継続的な被害弁償はできない場合も多いのです。
 
被害弁償の打診をすると、たまに「受け取るのはいいがそれで犯人の刑が軽くなるのは我慢ならないから判決後に受け取りたい」という方もおられます。
しかし、判決が出てしまえば被告人が被害弁償をする保障は弁護人にもできませんので、そのタイミングで受け取っていただく方が良いことが多いと思っています。
そもそも、本人が弁償のための十分なお金を持っていない事件で、被害弁償金を捻出するのは親であることが多いのですが、よほど犯人が年少でもない限り本人の犯罪の法的な責任を親は負いませんので、親が心変わりしてそのお金を引き揚げてしまえばそれまでです。
このように、被害弁償の交渉というのはタイミングが難しいところがあります。
 
 

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