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刑法各論(財産犯)

 

詐欺罪

詐欺罪
 
詐欺罪の成立要件
詐欺罪の成立要件は、刑法246条に定められています。
前田雅英『刑法各論講義(第5版)』の説明に倣うと、

(1).人を欺いて(欺罔行為)
(2).(1)によって相手を錯誤に陥らせ(錯誤)
(3).(2)によって相手に財物・財産上の利益を交付させ(交付)
(4).(3)によって財物・財産上の利益を得ること

上記(1)・(2)・(3)・(4)の要件が必要です。
なお、この4つの要件が関係なく個別に発生したのでは詐欺罪は成立しません。
4つの要件が、財物または財産上の利益の詐取に向けて貫かれていることが必要です。

典型的には、全くありもしない話(例えば、実際には経営している会社などないのに自分が経営している会社への投資を依頼する等)で相手を信じさせて金銭を受け取ったような場合には、詐欺が成立します。

他方、金を借りて返せない人に「詐欺師」などという罵倒が投げかけられることがありますが、実際に刑法的な観点から見た時に、金を借りて返せないという場合だからと言って全て詐欺が成立するわけではありません。

金を借りたということで(3)(4)があるとしても、それが欺罔行為(1)とそれによる錯誤(2)によるものでなければならないのです。
つまり、最初から金を返さないつもりで金を借りた場合にのみ詐欺罪が成立します。

借りるときは何とか返すつもり・返すあてがあったけれども、結局金を工面できなかったので返せなかったという場合であれば、嘘をついたわけではない(欺罔行為をしたわけではない)ので、詐欺罪は成立しません。
また、貸す側が金を返すつもりがないことをわかりつつも、仕方ないと思い金を貸したような場合も詐欺罪は成立しません。

こう書くと、「じゃあ、後で返すつもりだったと言えば詐欺罪じゃないということで無罪になるのか」と思われる方もおられると思います。
ただ、実際の詐欺罪の刑事裁判では、もし被告人が「後で返すつもりでした」と言った場合は、実際にどうやって返すつもりだったのか、入金や融資などの手段で返済資金を獲得するあてはどのくらいあったのかということが争点になりますので、全く根拠のない「返すつもり」の言い分が通るわけではありません。

 
食品偽装は詐欺罪か

最近(平成25年11月)、全国の、特にホテルのレストランにおける食品の産地・製造方法等に関する食品偽装問題が報道されました。
オージービーフに油脂を注入したものを和牛のステーキとして出したり、また手作りで搾っていないジュースをフレッシュジュースとして出す等です。
ホテルレストランの食事は一般的な食堂やファミリーレストランよりも値段が高いこともあってか、大きなスキャンダルとして報道されていました。

ネット上には「詐欺」とする意見もありました。
しかし、ここで、食品偽装が刑法上の詐欺罪になるかどうかという問題に関しては、実はけっこう難しいものがあると思います。

例えば、アフリカでとれた天然ダイヤの指輪だと言って1000万円で販売したのに、実はその指輪は国内の工場で作られた人工ダイヤの指輪(時価1万円程度)だった、しかも販売する側もそれを知っていたという場合、詐欺罪が成立する可能性は高いでしょう。
買う側が1000万円もの金を出すというのは、まさにそのダイヤが天然ダイヤであるという錯誤に陥ったからです。

これと同じ理屈で行けば、基本的にホテルレストランの食材偽装にも詐欺が成立することになりそうです。

ただ、仮にメニュー表示に欺罔(油脂注入肉を「黒毛和牛のビーフステーキ」と偽って3000円で提供)があったとしても、それによって客が錯誤に陥り、さらにその錯誤によって代金を提供したと言えるかどうかについて難しい問題があります。
単に「ビーフステーキ」と書いてあったとしても注文したであろう客については、詐欺罪は成立しないことになります。その客は、その牛肉がオージービーフであろうが黒毛和牛であろうが3000円の代金を払ってそれを食べることに関しては納得していたわけですから、欺罔行為による錯誤やそれによる財物交付はないことになります。実際、ホテルのレストランで食事する時に、肉の産地にそこまで強いこだわりをもって注文する人も少ないと思われるので、大半の客については詐欺罪の成立はないことになります。
そうなると、詐欺罪が成立するのは「黒毛和牛じゃなければ3000円を支払わなかった」という客のみであることになりそうです。
製造方法についても、同様です。それが搾りたての「フレッシュジュース」でなければ注文しなかった、普通の「オレンジジュース」なら頼んでいなかったという客についてでなければ詐欺罪の成立はないことになります。

そして、ホテルレストランの食事の場合はもう一つ難しい問題があります。
これは大学時代の民法講義(河上正二教授)で余談として聞いたことの受け売りになりますが、ホテルレストランの食事代金が比較的高い理由として、その席をそれなりの時間占拠するという場所代の趣旨も含まれているとみられるからです。
ホテルレストランの食事の環境は、それが高級なホテルであればあるほど、景色・眺望、テーブルとテーブルの間隔やテーブルクロスのしつらえ、椅子の座り心地、ウェイター・ウェイトレスの所作、BGM等々についてまで、行き届いています。快適かつ静かな環境で、ゆっくりと食事をしながら会話や考え事ができるようになっています。
隣とほぼぴったりくっつくような環境で、一人一人短い時間に食べきって席を立つことが暗黙の条件のようになっている牛丼屋や、それよりは高級感があるとしても往々にして騒がしい学生などが多い(私も騒がしい学生でしたが)大衆的なファミリーレストランと比べると、快適な環境と言う意味ではかなりの差があります。
何が言いたいかと言うと、3000円というステーキの料金にはそのような要素も多分に含まれていると見られるので、油脂注入肉を「黒毛和牛」と表示する欺罔行為があったとして、それによって錯誤に陥った、それによって代金を支払ったという因果関係が認定できるのか(普通はそのレストランで食事をすることが重要なのであって、肉の産地がそこまで重要なことであると言えるか)、必ずしも肯定しきれないところがあると見られるからです。

そして、その問題をクリアするとしても、最後に「可罰的違法性」が問題となります。
詐欺罪は、罰金がなく、刑を科される場合は10年以下の懲役刑のみという、決して軽くはない類型の犯罪です。恐喝と同じ類型の財産犯で、量刑に関していえば窃盗や業務上横領と遜色ない重さです。
そこまでの重い処罰を科すからには、恐喝、窃盗、業務上横領等々の財産犯と遜色ない違法性(可罰的違法性)がなければならないと見られるのです。
そう考えた場合、上記に述べたような考慮要素からして、ホテルレストランの食品偽装の一つ一つについて詐欺罪が成立すると言えるか、やはり難しいように思われます。

もちろん、ホテル側の道義的な責任は厳しく追及されるべきですし、そのスキャンダルによってホテル全体に対する信頼の低下につながり、ホテル側が不利益を被ったとしても、それは自業自得ですし、特に同情されるべきところでもないと思われます。食品偽装問題を「誤表示」と言い換えようとするのも妥当でないと思います。
ただ、刑法というのは人に懲役刑等の重い処罰を科し、また前科という重い十字架を背負わせるものである以上は、なるべく謙抑的に行使されなければならないものです。
その観点から行くと、今回の食品偽装について基本的には詐欺罪までは成立しないという結論になるかと思われます。

ただ、今後、全ての食品偽装について詐欺罪が成立しないというわけではなく、例えばその偽装した食品を主要な商品として宣伝して客を集め、高額の食事代金を支払わせたような場合で、その代金が専ら食事についてのみ向けられているような場合(つまり、食事の環境等について一般的な店とさほど変わりないような場合)は、詐欺罪が成立する可能性も皆無ではないということになるかと思われます。


 

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