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2026年の憲法記念日に考える

ソフトなファシズムと国旗損壊罪

ソフトなファシズム

独裁的な政治家のことを指して、ファシズムだヒトラーのようだ、あるいは戦前回帰だと批判する。
政治論戦でよく見られる状況です。
ただ、これを言いすぎることのリスクというのがあるように思われます。

皆さん学校教育で、ファシズムとは典型的にはドイツ、特高警察による言論統制、ヒトラーといえばアウシュビッツの収容所で民族虐殺を行った最悪の指導者、戦前と言えば治安維持法、左翼的言論はぜんぶ取り締まられ牢獄に繋がれた。そのことは学んでいます。
それはたしかに真実と思います。
ただ、これは逆方向のリスクを生じさせます。
目の前に起きているファシズム的現象に関して、「ナチスほどじゃない」「ヒトラーほどじゃないしアウシュビッツ虐殺のようなこともない」「治安維持法じゃないから反対派が全員牢獄に繋がれるわけではない」
→「だからこれはまだファシズムじゃないんだ」
と考えてしまう、という危険性です。

別の項で論じたかもしれませんが、子供たちに「いじめは犯罪だ」と言いすぎることで、かえって「これは犯罪じゃないからいじめじゃないんだ」と(実際にはいじめなのに)子供たちに(あるいは事態に対応したくない教師に)自分への言い訳を作らせてしまうのと同じです。

例えば
1 反政府的な言論を述べた政治家や有名人がSNSで徹底的にバッシングされる
2 切り抜き動画で無能政治家、あるいは何もわかっていない馬鹿者のように編集される

たしかに虐殺されてもいませんし、牢屋に繋がれてもいません。
しかし、SNSで情報が流布される現代社会において上記はいずれも十分にファシズム的現象です。

ファシズムあるいは人権無視の独裁というのは為政者が幾ら煽ったところでそれだけでは成り立ちません。
それに追従し追随する、権力に服従することを是とし権力に服しない者を寄ってたかって攻撃する大衆があって初めて成り立ちます。
現在がまさにそのような状況で、反権力的言動が「聴いてもらえない」「無視される」ならまだ健全なのですが、執拗に晒され貶められバッシングされます。
世界中の情報に触れることができるスマートフォンが、かえって人を煽る道具と化してしまっていることは皮肉なものです。

なお、私は反権力が正義だと申し上げるつもりではありません。
まして特定の政治勢力が正義と申し上げるつもりもありません。

しかし、例えば「戦争反対」であるとか国会前デモであるとか、「大きな」話にばかり収束してしまいがちで、生活の中に少しずつ忍び込んで浸透していく、言わば「ソフトなファシズム」が過少に見られているのではないか。それこそが懸念されねばならないのではないか。
(既に「ソフト・ファシズム」という言葉を用いている先人がおられますが、私もそれと似たようなことを考えておりました)

反権力的な発言をした政治家や有名人がSNSでバッシングされる現状には強い危機感を覚えております。
正当な批判はあってしかるべきですが、言われなきデマや切り抜き動画での貶めは許されることではないと考えております。

このような状況がいつまで続くのか、そのように思う憲法記念日でした。

国旗損壊罪案に関する疑問

2026年現在、国旗損壊罪について、法制審議会すら通さずに与党議員が検討している状況のようです。
これに対する異論や不安の声が挙がっていますが、上述した状況のためにその声は大きくはなっていないようです。
しかし、私もいち弁護士・いち法曹として疑問が尽きません。

そもそも外国の国章を損壊すると犯罪になるのは、それが「外交に関する罪」であって保護法益が外交関係であるからです。
かつ、外国国章損壊罪は親告罪なので、その国旗を害された外国の判断で特に問題ないと考えるのであれば起訴されえません。
したがって、外国の国章損壊罪があるのであるから日本国旗にも損壊罪を、という理屈は成り立ちません。
日本国旗を損壊したところで外国との外交関係に影響はないからです。

必要性についても疑問があります。例えば日の丸を嫌う学校教師が学校で保管している日本国旗を損壊した場合、器物損壊罪、また、それが式典の最中などに行われた場合などは業務妨害罪に問う余地もあります。そもそも、刑罰に問わなくても教育上の教師に対する懲戒処分(前科にならない)で対応すれば十分というところでもあります(君が代不起立に関する懲戒処分の是非について最高裁判例があり、結論には疑問も残りますが、論理としてはきわめて慎重な論理を用いています)。
ことさら国旗損壊罪を設ける必要性があるとは思われません。

そして、報道によると、思想良心の自由に踏み込まない趣旨で、損壊の主観的意図は問わず損壊を処罰するというのです。
上記の外国国章損壊罪にすら「外国に対して侮辱を加える目的で」という絞りがあるのに、それを消すということでしょうか。
処罰範囲が無限定に拡大することは目に見えています。

それは例えば、日の丸に寄せ書きで「がんばれ日本」「負けるな日本」と書き込んだ場合でも損壊に該当しうるという結論になります。
スポーツで日本代表選手を応援するつもりで日の丸国旗に「打ち破れ」と書き込んだら片っ端から逮捕されるのでしょうか。
意図を問わないとはそういうことです。
おそらく、これが本当だとしたら、考案した議員は、損壊者が「いやだなあ、日本を悪く思う意図なんかありませんよ」と言い訳するのを防ぐために目的を問わないことにしたのかもしれません。
これこそがリーガルマインドの欠如というものです。
刑法というのは、目先の、処罰するための便利さを追求してしまうと、別のところで、本来処罰すべきではない行為を処罰することになってしまうというひずみをつくってしまうのです。
だからこそ、刑法学が存在し、保護法益は何か、そして刑罰の謙抑性にかなっているかを慎重に判断するのです。
私の把握している報道のとおりであるとすればですが、現在の検討状況は、そのような綿密な議論を欠いているように思われます。

そして、自己の所有する国旗であるかどうかを問わないそうです。
これも「これはぼくの所有する日本国旗ですよ、これをどうしようがぼくの自由でしょう?」という言い訳をさせないための策かと思われますが、そうであれば、いちど出来上がってしまった日本国旗は処分できないことになります。
細かい話になりますが、おそらく引っ越し業者など業者の運搬も断られますし産廃処理も断られることでしょう。
損壊すれば犯罪者なのですから。
むしろ作った時点でどう処分しようもないものが出来上がることになりますので、かえって日本国旗が忌み疎まれることになるのではないでしょうか。
汚損したのが少年だとしても14歳以上であれば「非行」として家庭裁判所送致されますから、各学校や各家庭では児童生徒にも絶対に触れさせないようにするでしょう。

あまり報道されてませんが、もう一つの弊害もあります。
陥れたい政治家や有名人の庭先にでも、あるいはカバンの中、引き出しの中にでもぼろぼろに汚して損壊した国旗を投げ込んでおけば国旗損壊罪の容疑者(被疑者)の完成です。
所持品や家宅捜索もされてしまうかもしれません。
これが恐ろしいのは、反権力的な人だけが被害にあうとは限らないことです。
ふつうの人でも、むしろ右翼の人でも「目的は問わないし自己所有か否かを問わない」のですからいくらでも容易に陥れられることになります。

刑法も刑事訴訟法も、そんな世の中にしないための法律です。
厳しい刑罰を定めてはいますが、逆に言えば刑罰に問われるような犯罪行為を事前に規定することで、それ以外の行為を犯罪とはしないという自由保障機能もあるのです。
国旗損壊罪の議論は、基本的なところから、憲法ひいては、刑法理論・刑事訴訟法理論・人権保障のためのの観点から検討されるべきものであると考えております。

前田誓也法律事務所
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